ベートーヴェン ピアノ・ソナタ Op. 2-1
「しかし私は目論見をやめない。次回の更新はベートーヴェンのピアノソナタについてである、と予告しておこう。」
前回のエントリーはこう締めくくった。しかし、このままのペースでいれば私が次回のエントリーを書くのは50年後かもしれない。
それはいけない。少なくとも、私がこのブログを始めた趣旨とは変わってきてしまう。
私のやりたかったプロジェクトの一つは、ベートーヴェンのピアノソナタ全曲の感想を一つずつ書いていくことである。仕事で全曲聴かなくてはいけないので、これをいい機会として感想を残したいのだ。なんと壮大な。
だが私は大それたことを考えている訳ではない。音楽理論の授業では悪い成績を残し続けた。今でもソナタ形式というものがいまいち理解しきれない。理屈ではなんとなくわかるが、実際に楽譜に向き合って「ハイ、分析してください」となると何が何だかよくわからない。
だから、私の本当に主観的な感想を述べて、自己満足とする。
Op. 2-1。確か、ベートーヴェンが25歳の時の作品だ。25歳って若いけれど、この時代の作曲家が初めてのピアノソナタを作る年齢としては歳をとっているかもしれない。でもそのぶん、きちんと成熟した作品なのだと聞いた。
確かに、このリヒテルの演奏も20分かかるなかなかの大作。しかも、この時代に短調のソナタとはなかなかの挑戦だ。
ベートーヴェンは、息の長い旋律の作曲家じゃない。短く単純なモチーフを緻密に積み重ねて組み合わせ、楽曲にしていく人だ。この曲もごく単純なモチーフから始まる。
リヒテルの演奏は、このソナタを完全に支配下に置いている。すごいコントロールだ。
演奏を始める前に客席をみるなんとなく落ち着かない表情も良いし、客席が静かにならないうちに始めるのも良い。この曲はソナタの1番なので、小学生とか中学生がベートーヴェンの入り口に弾くことも多いのだが、曲のそういう側面を一切感じさせない、マスターピースとしての演奏だ。緊張と緩和、全4楽章の中で手品のように色々な要素を引き出してくる。
最後の4楽章ではなんだかショパンのソナタ2番の終楽章を思い出してしまい、なるほど!となった。右手と左手のテンポが微妙に違ったりして、ちょっと乱暴なところもある演奏だけど、音楽そのものが先行していてものすごい説得力。
Sviatoslav Richter - Beethoven - Piano Sonata No 1 in F minor, Op 2