ベートーヴェン ピアノ・ソナタ Op. 2-2
若きベートーヴェンはハイドンの弟子だった。二人の関係は ーー少なくともベートーヴェンにとってはーー 理想的な師弟関係とはいかなかったようだが、それでもベートーヴェンの作品からハイドン先生の痕跡を見つけるのはそれほど難しいことではないように思う。そもそもこのOp. 2の三曲はハイドン先生に献呈されているのだから、これほど明白なことはない。
短いモチーフの使い方や形式感、そして、音楽の中にあるユーモア。
誰がクラシック音楽は真面目なしかめっ面の音楽だといったのだろう?人生を救うのは苦悩しながら宿命に耐え、それを乗り越えることだけではない。日常の傍にあるふとした笑いの重要さを作曲家はよく知っていたと思う。ちょっとした笑いは、壮大な感情にすぐ隠れてしまうからこそ、楽譜をよく見てすくい取らないといけない。
Op.2-2の出だし。
おどけた呼び声と、応答。ピアニストにとってこの出だしはなかなか緊張する。前置きやベースとなる和音がなく、唐突に知らない人に話しかけるような始まりだ。聞いている人が笑ってしまうような、愉快な会話。
私が子供の頃、ベートーヴェンのOp. 2-1を弾いた後に2番のOp. 2-2にいくのかと思っていたら全然違う曲にいった。当時は何でだろうと思っていたが、大人になると、Op.2-2, 3の難しさに気づく。規模が大きく、若きベートーヴェンが意欲をみなぎらせて全力を尽くしたのがわかる。おそらくピアニストとしてのベートーヴェンもこの時期かなりブイブイ言わせていたのだろう。技術的にもかなり難易度が高い。
ギレリスの演奏はユーモアに満ちている訳ではないけど、楽譜にまっすぐに演奏することによって聴衆にいろんな感じ方を許す。
注目を集めるための仕掛けなんかもそんなになく、カチッと進むけれどそれが小気味好い。
小細工なしでここまで聴き入らせることができるのは本当にすごいなあと思う。